鉄(Fe)は純粋な単体物質よりも、「①炭素量や熱処理を行うことで硬度を調整できる事」「②炭素や他の元素を加えることで合金鋼となり多様な特性を持てるようする事」、の二点から使い勝手の良い素材となっています。

 また金属の中でトップの埋蔵量となっているため汎用性が高いです。ただし、酸化しやすいため赤錆の状態での鉄鉱石として産出されるため、取り除く作業が必要なため、技術の進化によって活用方法が変わってきました。

目次

 ①炭素鋼の科学

  ⅰ.5元素ⅱ. 鉄の炭素量による分類ⅲ.抽出方法ⅳ.熱処理ⅴ.鍛造ⅵ.錆び

 ②合金鋼

  ⅰ.合金元素ⅱ.ステンレス鋼ⅲダマスカス鋼ⅳ高速度鋼

 ③分野ごとの使用法

  ⅰ.包丁ⅱ.磁石ⅲ.建築

➀炭素鋼の科学

 鉄は基本的に炭素を加えた上で、熱処理などによる変化を考察することが一般的です。

 その状態の炭素鋼は「鋼の5元素(炭素、ケイ素、マンガン、燐、硫黄)のみ含まれています。

【ⅰ:5元素】

 炭素(C)…硬さや強さを増す最大要因。そのため、一般的に炭素鋼は炭素量で分類されます。

 ケイ素(Si)…強さや硬さを増す。炭素の十分の一程度。

 マンガン(Mn)…鋼に粘り強さ、いわゆる靭性を与えます。

 燐(P)…冷間脆性、つまり寒いときに鋼を脆くさせます

 硫黄(S)…熱感脆弱性

※このため燐と硫黄の割合を下げることが良いとされいます。

【ⅱ:鉄の炭素量による分類】

 炭素は鉄の結晶格子の隙間に入り込んだ状態で存在すること(固溶)ができます。さらに固溶の限界以上に炭素を含むと、炭素は鉄原子と結合してセメンタイト(Fe3C)として結晶中で析出します。セメンタイトは鉄の硬さを増す性質を持っているため、炭素量が増えると硬さが増します。(1)

 純鉄 ほぼ0%

鉄 0~0.04%

錬鉄 0.1~0.02%

  鋼 0.04%~2.1%(0.02~2.14%)

  軟鉄 0.08%以下(柔らかく、焼き入れしても硬化しない)

  一般的な包丁に使用される炭素鋼 0.8~1.3%

 鋼鉄 0.1~1.7%

 銑鉄 1.7~4.5%

  鋳物鉄(いもの) 2.1~6.7%

※鋼は「刃金」が語源という説もあり、刃物に向いた範囲の鉄というイメージがあります。

 炭素量が多くなると引張強さ・硬さが増しますが、伸び絞りが減少し研いだり削ったりするのが難しくなります。

 ※ピアノ線は高炭素鋼

【ⅲ:抽出方法】

 鉄鉱石を原料にして鉄を抽出する場合は「高炉」を使います。

 鉄くずなどスクラップ材を利用する場合は「電炉」を使います(鉄筋コンクリートようの異形鉄筋はほとんど電炉のようです。

 また日本は製鉄所ができるまで「鉄鉱石」はなく、砂鉄から鉄を抽出していたようです。それを「たたら製鉄」と呼びます(また日本刀の原料の玉鋼はたたら製鉄から作られます)。

【ⅳ:熱処理】

 鉄を加熱すると、結晶の大きさや結晶構造が変化します。これは鉄原子が熱エネルギーをえることで、その動きを活発化することが原因のようです。(1)

加熱による鉄の状態変化

 鉄は 0~911℃ α鉄(フェライト)になります。911℃~1392℃だとγ鉄(オーステナイト)になります。炭素の固溶量に変化が起こります。

熱処理とは、加熱して基本的にα鉄の状態から、冷ます作業の事を指します。

 ①焼なまし:ゆっくりと冷ます方法です。

 ②焼ならし:空冷によって冷まします(パーライトという状態になります)。

 ③焼き入れ:急速に冷まし、炭素は結晶格子構造の急激な変化に対応できず、結晶におおきなひずみが生まれ、それが鉄に硬さともろさを与えるようです(そのため時間をかけて冷やした方が結晶の微細化と均質化が高いようです)。マルテンサイトという状態になります。冷ますのは水を使います。

  刃物を作る時などは焼き入れによって硬さを作ります。

 ④焼き戻し:焼き入れし物を再び加熱させる作業です。

  硬さの調整や内部応力の除去、靭性の付与などの問題を解決します。

ばねや鋸などに使います。(1)

※冷却する速度を極端に早くすると、原子は結晶化するいとまもなく、個々の原子がバラバラのままで凝固することがあります(アモルファス鉄合金といわれます)。アモルファス鉄合金は引張強度が非常に強く、また磁化しやすいため磁気ヘッドやモータ鉄芯などにも使用されます。(1)

【ⅴ:鍛造】

 金属を熱して「鍛錬」することを「鍛造」といいます。

 金槌などで「鍛錬」するのは、鉄の結晶粒子を微細化し、組織を均質化し、物質的性質を改善する効果があります(粘りや刃付けの容易さ、切れ味の持続性に繋がります)。また鍛錬することで不純物質を取り除き、鉄と炭素のみのものに仕上げる効果もあるようです。

 整形の目的で鍛錬する事もありますが、包丁などにおいては鍛錬して良質な母材を作る目的が強いようです。

※結晶粒子は大きいほど、鉄の靭性を低下させます。

【ⅵ:錆び】

 「錆び」とは、空気中の水蒸気が鉄の表面に膜をつくり、その膜に酸素が溶け込み、酸素と鉄が化学反応を起こした酸化鉄という状態になることです。

 また鉄の表面が汚れていると水の層が酸性になり、この反応を促進します。

 そのため、汚れをとり、乾燥した場所に置いておくことが発生を防ぎます。

 基本的には自然に酸化被膜を発生する事で錆びが起こらないようにします。

 鍛造包丁は、組織の微細化、均質化がより進んでいるため、酸化被膜の水酸基に対する強度が大きく、赤さびの発生が止まりやすいとも言われています。

②合金鋼

【ⅰ合金元素】

 鋼に添加して合金にする成分を紹介します。

 クロム(Cr)…焼入性が良くなり、耐食性(錆に対する耐性)を増します。13%以上添加されると「ステンレス鋼」と呼ばれます。

 ニッケル(Ni)…クロム同様鋼の表面に酸化被膜を生成して錆びを防ぎます。

 モリブデン(Mo)…焼き入れによって強度をさらに高める効果があるようです。

 パナジウム(V)…強度と靭性、耐摩性を高める効果があります。

 コバルト(Co)…磁性鋼には欠かせません

 銅(Cu)…鋼の表面に強力な被膜を作り、耐候性、耐海水性に優れています。(1)

【ⅱステンレス鋼】

 鉄にクロムおよびニッケルを混ぜることでつくられる合金です。

 材料に含まれているクロムと鉄の水酸化物が1~3nm(ナノメートル)の厚みで存在しそこが錆びて「酸化被膜」を作ります。そのため空気中に放置しても錆びに特性をもっています。

ステンレス鋼の種類

 ①オーステナイト系(オーステナイトはγ鉄の状態の名称)

  クロム・ニッケルを添加したもの。

  【耐食性】強い【磁力】付かない【硬化】しない【炭素】ほとんどない

  スプーンや食器などに使います。

 ②フェライト系(フェライトはα鉄の状態の名称)

  クロムを添加した系列の一つ。

  【耐食性】①より劣る【磁力】付く【硬化】しない【炭素】少量

  ボルト・ナット・家電などに使います。

 ③マルテンサイト系(マルテンサイは焼き入れした鉄の状態の名称)

  クロムを添加した系列の一つ。

  【耐食性】②より劣る【磁力】付く【硬化】する【炭素】多い

  刃物やベアリングなどに使います。

※かつて缶には強度の関係で炭酸を中心にアルミ缶を使い、それ以外はスチール缶を使っていましたが、最近は技術の進歩でアルミ缶が主流となっています。

※ステンレス鋼の歴史

ファラデーは研究の中で隕鉄が錆びにくいのはニッケルが1.76%も入っていることにヒントを得て、錆びない鉄を作ろうと、ニッケルを3~10%添加し(ステンレス鋼は13%以上が基本)たところ、錆びにくいということは分かったもののもろかったので、それ以上の進展はなかったようです。

 ドイツのクルップ社の創業者クルップは研究の結果、ニッケル1.12%添加から急冷すれば防げることを発見しました。

 1874年には低クロム鋼が開発され、ミシシッピー河のイーズ橋の橋梁用材として使われました。

 1914年にブレアリーがステンレス鋼製刃物(クローム12-14%、炭素0.3-0.4%)を発明しました。(1)

【ⅲ.ダマスカス鋼】

 合金鋼の発見につながった鋼です。

 インドのイギリス植民地時代にインドのダマスカスにダマスカス刀という切れ味の鋭い、独特の模様を持つ刀剣がありました。

 この材料のウーツ鋼をイギリスのファラデー(電磁波の研究で有名)が分析を依頼されました(もともと鍛冶屋の息子であったことなども関係するようです)。

 結果的には微量のアルミとシリカが含まれていることは分かったもののウーツ鋼を作ることはできなかったようです。

 ただ、その研究過程で鉄に様々な金属元素を加えて、79種類もの合金を作り出すことに成功し、それがもとになりヨーロッパ各国やソビエトで様々な合金鋼が開発されたようです。(1)

【ⅳ高速度鋼】

 溶融点直下の焼き入れにより作られます。ハイスピードで切削できるので、ハイスピード・スチール(ハイス、HSS)という名前が付きました。

 アメリカ人のテーラー(科学的管理法の父)とホワイトが、ムッシュ鋼を炉の中に入れて加熱して、うっかり放置してしまった結果、白熱していまにも溶けそうになっていたが、油の中に放り込んだところ、すばらしい切れ味を見せたことから発見されたものです。

 それまで730℃で焼き入れすれば焼が入ると考えられていたので、溶ける寸前の1300℃まで温度を上げて焼き入れするなどということは考えられず、発見でした。現在もこの方法論は変わっていません。

 1900年パリの万博でこのバイドが出品されハイスピードで切削できると評価を得て名前が付きました。

 更にテーラーは、焼き入れした高速度鋼を600℃に焼き戻しすると、さらに切削力が上がる事を発見しました。それまでは、焼き戻しするれば軟らかくなると考えられていたため、画期的な発見でした。(1)

③分野ごとの使用方法

【ⅰ包丁】

 包丁は「両刃」は力を入れた方向にまっすぐ進む「切る」「刻む」が得意です。「片刃」は力をいれると刃の無い方向に逃げるように進む「削ぐ」「剥ぐ」が得意です。

 包丁の分類

 ①鋼のみ

  「本焼」とも呼ばれ、和包丁の中でも高級な包丁です。ただ「本焼」においても「焼き入れ」は切る側のみであることが多いようです。

  洋包丁も鋼から打ち抜いて作られることもあるようです。

 ②鋼+軟鉄

  伝統的な和包丁は、軟鉄を素材として切る側に鋼を張りつける「鍛接」によって造られることが多いようです。

  軟鉄は、炭素量が少なく柔らかい鉄で、鋼は炭素量が多い固い鉄のことです。ただ、鋼の部分でも先の方しか「焼き入れ」を行わないこともあるため、ある程度包丁を研ぐと切れなくなるケースもあるようです。包丁を研ぐ際は、軟鉄より鋼側を意識して研ぎます。

  軟鉄と鋼の境界の部分が霞のような模様になるのが特徴です。

  因みに、日本刀は軟鉄を中心部の芯にして、鋼で包むようにして作られます。

  洋包丁においては、鋼を両側面で軟鉄を挟んだ割込構造のものが多いようです。

  洋包丁の形式を「クラッド材」とも呼び、一般的には低炭素の焼が入らず錆びにくいステンレス(マルテンサイト系一辺倒ではないと思われる)を使用します。

 ③セラミック

  陶器のため錆びることがなく、鋭い切れ味が長く続きますが、非常に硬度が高いので家庭での研ぎ直しは困難。鋼やステンレスなどの金属の包丁に比べて、強い衝撃には弱く、折れたり欠けたりしやすい素材です。

包丁の研ぎ方

0.砥石…水に浸すのは研磨性を高めることと滑りが悪くなったり発熱するのを防ぐため

1.切っ先…切っ先は形状が違うため右手をひじごと上にあげて研ぎます。

2.全体…包丁を寝かした状態で45度くらいにあてます。そして、コイン2分の隙間を開けて包丁を縦に傾けます。その後、研ぎたい場所に左手を置き20回ほど前後させて「かえり」が出るまで研ぎます。

3・「かえり(バリ)」をとる…あまり力を入れすぎずに研ぎ、手を置いた部分を各2~3回反対側を研ぎます。刃先は少し立てて行います。円を描くような動きで落とす方法もあります。(バリ自体は砥石でなく新聞紙などでとる方法もあります)

4・小刃付け…簡単にいうと二段刃を付ける処理です。研いだ状態で刃の三角形が尖った状態になり、すぐに摩耗してしまうため、二段にすることで持続性を高める方法です。研ぐ時よりかなりたてて研ぎます。力はほとんどいらず10回前後でかえりができるまで研ぎます。そして刃元は90度にして数回かえりをとります。

 刃物は三角形よりやや膨らみを持った刃であった方がよいため、小刃をつけます。

※研いだ直後の包丁は金属臭がうつりやすいので、半日程度おいてから使うのが目安。

刃物の有名な地

①岐阜県関市(日本国内シェア57%)②ドイツのリンゲン③イギリスのシェフィールド

関市のメーカー

①正広

 「正広別作」と銘が打たれたものも出しています。「渡辺源正広別作」は別のメーカーのようです。

 【ラインナップ】

  モリブデン(Mo)・パナジウム(V)のステンレス鋼のものと本焼き(MVシリーズ)

  ハイカーボンステンレス鋼によるもの

②貝印(1908創業)

 「関孫六」シリーズなど

 【ラインナップ】

  ステンレス三層鋼…技術の進化により、錆びづらいステンレス刃物鋼を芯材したもの

  付け鋼…切る側が高硬度鋼でそれ以外は低硬度鋼

  ステンレス鋼…ステンレス鋼のみで作られたもの

  付け鋼…軟鉄と鋼を鍛接したもの

  コンポジット…ステンレス刃物鋼に高級ステンレス刃物鋼を波打つようなラインで取り付けたもの

  ダマスカス鋼

【ⅱ磁石】

 磁石につく金属はニッケル、コバルト、鉄です。

 ステンレスは鉄の含有量によって決まります。

 磁石は酸化鉄にして合金にしたものです。

 20世紀半ばはアルニコ磁石(アルミ・ニッケル・コバルト)がメインでしたが、1960年のコンゴ動乱以来コバルトが暴騰し、1970年代から鉄クロムコバルト磁石などが使われます。

【ⅲ建築分野】

 鋼を柱と想定して利用する「鉄骨(Steel)」と、コンクリートが定着し易いように棒状にした鉄を使った「鉄筋コンクリート」においてしようされます。

鉄骨を作った構造の分類

 ①ブレース構造:木造の柱と梁ように利用する構造で軽量鉄骨を基本的に使います。

 ②ラーメン構造:柱と梁を完全に固定(剛接合)して四角状に利用する構造で重量鉄骨を使います。

 ③トラス構造:小さな三角形を多数組み合わせた構造で重量鉄骨を使います。

参考文献

・ウィキペディア「鋼」「炭素鉄」など参照

・masaihiro-hamono.com/story/story05 参照

・tennenseikatsu.jp

・sugimoto-hamono.com

https://ww.neomay.jp/mag-navi/column/column005.html/

・kai-group.com/products/special/hosho/learn/material/

・(※1)『『鉄』の科学がよ~くわかる本』高遠竜也、秀和システム、2009.6.20 文中の(1)はこの文献をもとに引用

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です