それは周囲をざわつかせるほどの規格外の豚だった。
1852年、イギリスのロンドンの北部・キースリーという町で、農業品評会が開かれた。
そこで、地元の織物職人ジェセフ・タリーは自信をもって一頭の豚を出品した。
しかし、この豚が物議を醸したのだ。
一年前の品評会で、ヨーク地方の白豚が人気を博した。そのため、今まで一つのカテゴリーで審査していたのを、「大きいタイプ」と「小さいタイプ」の二部門に分けて審査する程だった。
だからこそ、タリーも自信をもって育てた白豚を出品したのだ。しかし、その白豚は「大きいタイプ」にも「小さいタイプ」にも当てはまらない規格外の白豚で、今までの基準で審査することができなかった。
そのため、結果「不適格」とされてしまった。
大きさくらいどっちかのカテゴリーにいれて審査すれば良いのに思ってしまうが、「大きいタイプ」と「小さいタイプ」のカテゴリーの違いは大きさだけでない。両方とも肌は白からピンクに近い色だが、顔の形や体格がそこそこ違うのだ。
だから、タリーの豚は、「小さいタイプ」の顔の形を持っているのに、体格は「小さいタイプ」にしては大きすぎる。しかし、「大きいタイプ」にしては顔の形が違うし、体格もやや「大きいタイプ」より小さい。
こうして「不適格」になってしまったのだ。
ところが、優れた白豚であることは確かだった。大きさは大きすぎずなので家畜として飼いやすく、しかも育ちが早く、脂のノリも良い。、、、ただ、「不適格」にするには勿体なかったのだ。
こうして「中くらいのタイプ」のカテゴリーが創設されたのだ。更に、なんとこの後この「中くらいのタイプ」が一番イギリスの多くの農家に支持を得て飼われていくことになるのである。
…大ヨークシャー種と言うと、「ヨークシャー種」があってこその「大ヨークシャー種」と思われるかもしれないが、先に「種」としていたのは「大ヨークシャー種」。
イギリスでは「Large White Pig(ラージ・ホワイト・ピッグ)」と言われ直訳すると「大きな白豚」。「豚」と言うとこの「大ヨークシャー種」を思い浮かぶ人が多いと思われるように、世界中で支持された種である。1850年代の品評会後認知されてからは好評を得たものの、若干大きすぎるため多少嫌煙された時期もあったが、農業の大量生産化が進むにつれて「大ヨークシャー種」の生産性の良さが再評価され世界中に広がっている。ただ最近は「大ヨークシャー種」自体よりも、「三元豚」の「種豚」の一つとして使われることが多い。
…イギリスでは「Middle White Pig(ミドル・ホワイト・ピッグ)」で直訳すると「中間の白豚」。英名通り、「大ヨークシャー種」と「小ヨークシャー種」分類された後に登場してきた豚。登場してきた後は、小規模農家の多いイギリスでは大きさが手ごろで生産性がよいため一気に普及した。しかし1960年代辺りから生産効率の良さなどから「大ヨークシャー種」に人気を巻き替えられ、現在は希少品種となっている。日本において「大ヨークシャー種」よりこちらの「ヨークシャー種」の方が先に普及したため、特に「中ヨークシャー種」と呼ばずスタンダードな感じの「ヨークシャー種」として呼ばれる。
…「ヨークシャー種」同様、顔の形が「大ヨークシャー種」と比べてかなりペチャンコな感じになっている。体の小ささから生産性を問われる時代になると忘れられていき現在では絶滅している。しかし、家畜としての価値が薄れてきた後も、一時は高貴な身分の者たちでペットとして人気を博した時期もあったよう。また、1850年代には「大ヨークシャー種」と共にイギリスの話題になった豚で、「大ヨークシャー種」の品種改良にはかなり重要な役割を成した豚でもある。
…イギリスのヨーク地方(ヨークシャー)の近くにある「カンバーランド」において根付いていた豚肉。「カンバーランド」では古くから食べられていた「カンバーランド・ソーセージ」という渦状のソーセージが名物だが、そのソーセージにかつて使われていた(現在は絶滅に近い)。この「カンバーランド豚」はヨーク地方の隣でもあり、「大ヨークシャー種」などから派生した豚肉である。顔の形は「ヨークシャー種」に近く、しかし耳が垂れ下がっているのが特徴でもある。冷たく湿ったカンバーランドの気候に合っていて、独特の味わいがあるため地域に根付いていたが、赤身が多い豚が主流になるにつれて忘れられていき絶滅。しかし、最近再評価され復活させる試みもある。
※基本的にはwikipediaの日本語版と英語版の複数記事を参照。